おそらく平凡な日常

トレーニングの記録となんでもない事

風の谷のナウシカ(アニメージュ・コミックス・ワイド判 全7巻);宮崎 駿,徳間書店(読書録)

風の谷のナウシカ」を初めて観たのは地上波で放送される劇場版アニメである。このアニメが元々月間『アニメージュ』の漫画作品だと知ったのは割と最近のことだ。

劇場版アニメが公開されたのは1984年のことで、私はまだ幼かったことからアニメージュという雑誌や、当時のアニメ文化に触れた記憶はない。

立派な中年となった今、アニメの原作である漫画作品を読了し、宮崎駿が描いた本当の「風の谷のナウシカ」を感じることができた。

注目すべきは、この世界の設定である。

ユーラシア大陸の西のはずれに発生した産業文明は数百年のうちに全世界に広まり

 巨大産業社会を形成するに至った

 大地の富をうばいとり大気をけがし生命体をも意のままに造り変える巨大産業文明は

 1000年後に絶頂期に達しやがて急激な衰退をむかえることになった

 「火の7日間」と呼ばれる戦争によって都市群は有毒物質をまき散らして崩壊し

 複雑高度化した技術体系は失われ地表のほとんどは不毛の地と化したのである

 その後産業文明は再建されることなく

 永いたそがれの時代を人類は生きることになった"

冒頭、表紙裏側に記された「風の谷のナウシカ」の世界設定だ。

この設定を知らなくとも劇場版アニメをファンタジー作品として楽しむことは十分に可能である。しかしこの設定を理解すると単なるファンタジーではなく、人類の未来(あるいは遠い過去?)を舞台としたSF作品であることが分かる。

「永いたそがれの時代」とは・・・。

主人公のナウシカは、物語を通じて「腐海の謎」を解明したいと願っている。

漫画作品は劇場版アニメと比較して長編作品であり、アニメ終盤の名シーン"その者青き衣をまといて金色の野に降りたつべし・・・"は、漫画版の2巻にすぎない。

また漫画作品には登場人物も多い。出現する多くの登場人物によって、より複雑なストーリーが展開され、読者は物語に引き込まれていく。

アニメに続くストーリーと、この作品の世界を生きる多くの種族、人知を超えた能力を持つ登場人物達によって、ナウシカが願う「腐海の謎」と同時に、読者は「永いたそがれの時代」の意味を知る。

読み返すほどに人間の本来あるべき清らかさについて考えさせられるとともに、現代を生きる人類への警告ともとれる作品である。